どん底から這い上がった男の秘密

【ワナメーカー氏のこんな出世話】

 アメリカは「流通産業王国」と呼ばれるほど、チェーンストアや通信販売といった近代的な巨大商業が発展している。

 

 このように近代的な巨大商業が生まれたのは、わずか百年余り前のことで、なんとその創始者は、かつては貧しいレンガ工のジョン・ワナメーカーという人物である。

 

 この貧しいレンガ工がなぜ、スーパーチェーンを作り上げるに至ったか、それにはこんな出世話がある。

 

 ワナメーカー氏は、1838年フィラデルフィアに生まれる。

 

 父は貧しいレンガ工で、ワナメーカー氏は、家計を助けるために、わずか10歳でレンガ工の助手になるという最悪の状態から人生のスタートを切った。

 

 しかし、彼にも人生を変える転機が訪れる。

 

 第一の転機は、町の洋品店に勤めたことである。

 

 そこで商売のやり方について学ぶことができた。

 

 だが、彼は病に倒れる。

 

 さらに父の死。

 

 失意のワナメーカー氏は、不屈の精神で洋品店を開業、独立した。

 

 ところが不幸は続き、開業した三日後に南北戦争が勃発。

 

 店は開店休業状態に、しかし、彼はくじけない。

 

 何度も広告を打ち、町中に宣伝して回った。

 

 そして、ぎりぎりの安値をつけて売った。

 

 そして一年後、今度は打って変わったように注文が舞い込んできた。

 

 以後、世界恐慌や大戦といったどん底の危機を何度もワナメーカー氏は味わった。

 

 そのたびに、行商で全国行脚に出たり、営業方法を新しく転換することで乗り切り、ついには全米に大百貨店網を張り巡らせるまでに成長したのだ。

 

 さて、ワナメーカー氏の成功の秘密は何だったのだろうか。

 

 幸運に恵まれたからというわけではなさそうだ。

 

 それどころか、彼の回りにはこれでもかというほど、どん底の危機が訪れている。

 

 病に南北戦争大恐慌その後の大戦などなど・・・。

 

 そのたびに、彼はそれまで築き上げたものを失いかけている。

 

 がしかし、そんな時彼はいつも新しい商法を編み出して乗り切った。

 

 つまり、苦境に立たされても「なにくそ」と頑張ったことが成功へ繋がったのである。

 

 そればかりではない、実は、もうひとつ成功を呼び込んだ秘密がある。

 

 それは、彼の次の言葉に隠されている。

 

「われわれの店は、つねに“商海”を七つの灯りで照らし出す。“真実の灯り”“正義の灯り”“親切の灯り”“忠実の灯り”“先導の灯り”“協同の灯り”」

 

 また、次のようにも言っている。

 

「われわれは顧客を失望させてまで販売したくない」

 

 つまり、ワナメーカー氏が厳しい環境の中にあっても生き残り、次々と発展していたのは、客のために徹底的に尽くし抜いたからだというわけである。

 

 そして、この客へのサービス精神が、そのまま現代でもチェーンストア作りの精神ともなっている。

 

 商売は自分の利益追求だけを目指しては駄目だということである。