【ワナメーカー氏のこんな出世話】
アメリカは「流通産業王国」と呼ばれるほど、チェーンストアや通信販売といった近代的な巨大商業が発展している。
このように近代的な巨大商業が生まれたのは、わずか百年余り前のことで、なんとその創始者は、かつては貧しいレンガ工のジョン・ワナメーカーという人物である。
この貧しいレンガ工がなぜ、スーパーチェーンを作り上げるに至ったか、それにはこんな出世話がある。
父は貧しいレンガ工で、ワナメーカー氏は、家計を助けるために、わずか10歳でレンガ工の助手になるという最悪の状態から人生のスタートを切った。
しかし、彼にも人生を変える転機が訪れる。
第一の転機は、町の洋品店に勤めたことである。
そこで商売のやり方について学ぶことができた。
だが、彼は病に倒れる。
さらに父の死。
失意のワナメーカー氏は、不屈の精神で洋品店を開業、独立した。
ところが不幸は続き、開業した三日後に南北戦争が勃発。
店は開店休業状態に、しかし、彼はくじけない。
何度も広告を打ち、町中に宣伝して回った。
そして、ぎりぎりの安値をつけて売った。
そして一年後、今度は打って変わったように注文が舞い込んできた。
以後、世界恐慌や大戦といったどん底の危機を何度もワナメーカー氏は味わった。
そのたびに、行商で全国行脚に出たり、営業方法を新しく転換することで乗り切り、ついには全米に大百貨店網を張り巡らせるまでに成長したのだ。
さて、ワナメーカー氏の成功の秘密は何だったのだろうか。
幸運に恵まれたからというわけではなさそうだ。
それどころか、彼の回りにはこれでもかというほど、どん底の危機が訪れている。
そのたびに、彼はそれまで築き上げたものを失いかけている。
がしかし、そんな時彼はいつも新しい商法を編み出して乗り切った。
つまり、苦境に立たされても「なにくそ」と頑張ったことが成功へ繋がったのである。
そればかりではない、実は、もうひとつ成功を呼び込んだ秘密がある。
それは、彼の次の言葉に隠されている。
「われわれの店は、つねに“商海”を七つの灯りで照らし出す。“真実の灯り”“正義の灯り”“親切の灯り”“忠実の灯り”“先導の灯り”“協同の灯り”」
また、次のようにも言っている。
「われわれは顧客を失望させてまで販売したくない」
つまり、ワナメーカー氏が厳しい環境の中にあっても生き残り、次々と発展していたのは、客のために徹底的に尽くし抜いたからだというわけである。
そして、この客へのサービス精神が、そのまま現代でもチェーンストア作りの精神ともなっている。
商売は自分の利益追求だけを目指しては駄目だということである。